「絵をかく」という言葉に、いつも違和感を感じている。

「かく」は「描く」と書き、「書く」と同音であること、そして「えがく」とも読め、
語感的に対象や概念や想像、既に在るものを表現するように感じてしまう。
英語では油彩画はオイル・ペインティングといい、紙にかくドローイングと区別されている。
ちなみに壁にペンキを塗るのもペインティングである。油彩画は「かく」というより「塗る」という方が僕の感覚に近い。
僕の油彩画は単色を塗り重ねていくやり方で、油絵具が乾くのが非常に遅いので、一塗りごとに数日間は待たねばならない。
混色したくないという理由でそうしてきたが作品が出来上がるまで相当長い時間を要する。
そうして塗り重ねていくうちに絵の様相は変化し、やがて「なにか」が見えた！と感じる時が訪れる。
計画的、意識的、あるいは概念の追求のために描こうとしたわけではない。抽象画はもちろん具象画においても。
僕の絵画制作の主要な作業は絵具と筆が作り出す偶然に対処していくということで、意識的に選ぶのは色を選択する時だけであり、具象画の場合はモティーフは選ぶが、抽象画の場合はそれもなく、ただ漠然と手のなすがままに始める。選ばれた色は塗られた瞬間にある偶然を作り出し、僕の感覚がそれに反応していく。感覚的な快感を感じた時、それは絵が完成した時だ。 — 海老澤 研 —

●海老澤 研（KEN EBISAWA）
1952年　東京渋谷生まれ。
1977年　慶応義塾大学卒業。
1979年―1980年南米大陸を放浪、その後ロスアンゼルスに居住。
1980年　ブラジル人人女性と結婚、その後3女をもうける。
1982年　ブラジル、リオ・デ・ジャネイロへ移住。
2003年　日本へ帰国。
現在は日本とブラジルを往復しながら絵画制作を続けている。

展覧会
1986年　グループ展 リオ・デ・ジャネイロ州立アート・スクール パルケ・ラージ（リオ・デ・ジャネイロ）
1987年　ドロ－イング個展　ペトロ・ブライス社アート・ギャラリー（リオ・デ・ジャネイロ）
2006年　油彩画個展「リオの肖像」 Bar＆Galleryちめんかのや（東京）
2015年　ブラジル写真展「ジェンチ」　レストラン「モンキーフォレスト」（東京）